食肉の副産物である皮をリサイクルしてできる革製品。
究極のエコ製品であるともいえる一方、食肉のためであれ革のためであれ動物を殺すのはちょっと、、と考える人も少なくなく、サステナブルやエシカル消費を意識している人にとって、いろいろと考えさせられる存在です。
私自身、あまり意識せずに革製品を愛用してきたものの、ふと「あれ?革って動物愛護の逆行ってたりしないよね?」と疑問に思って調べてみたのがこの記事。
革製品って副産物だけ?知らないほうが良かったかもしれない皮革の話
こちら↑では「皮を取るためだけに動物を殺したりしていないよね?」という疑問について調べて学んだことをシェアしてきました。
そして定期的に知識のアップデートをしていると、肉や皮のために動物を殺していいんだっけ?という「動物愛護」の観点だけではなく、革が出来上がるまでの過程で大きな「環境問題」をはらんでいることもわかってきました。
そこで本記事では、
- 革製品の環境問題ってどんなものがあるんだろう?
- 革製品ブランドやメーカーは環境問題にどう対処しているの?
という疑問を徹底調査していきます。
長い年月をかけて真剣に取り組んでいる人々の存在もわかってきたので、ぜひ知ってほしいです!
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革製品の環境問題とは?
革製品にはそもそも、「革や食料にするために動物を殺していいのか?」という動物愛護的な観点での議論もありますが、それはいったん置いといて(気になる人はまず以下↓の記事を読んでみてくださいね)、この記事では革製品に関連する環境問題ってどんなものがあるんだろう、というところを見ていきましょう。
畜産業の温室効果ガス排出
まずひとつ目に挙げられるのが、「温室効果ガス排出」の問題。
革製品を生み出す動物たちを育てるのに排出される温室効果ガスは、CO2換算で年7.1ギガトンに上ります。
この数字は、人間活動で排出される温室効果ガスの約14.5%に相当するそう。
これだけ気候変動や地球温暖化などの問題が叫ばれているなか、温室効果ガスの排出量が多いというのは、環境問題という視点から言えば看過できない問題ではありますが・・・
ただ、畜産業って、動物を長い年月かけて育てて商品にしているわけで、人間と同じようにCO2排出するのは当然で、動物だって生きている以上呼吸して二酸化炭素を排出するのは仕方のない話ですよね。
それが「命をいただく」ということなのだと思います。
とはいえ、こういうところから、人間の衣食住のために動物を増やして消費することへの疑問とか、ヴィーガン・ベジタリアンの考え方などが出てきているのだということも理解できますよね。
なめし工程での大量の水消費と水質汚染
もう一つは、なめし(鞣し)工程での水の大量消費と汚染の問題です。
食肉をとった後に残る副産物としての「皮」。
生き物ですから、そのまま放っておくと腐敗が進んで硬くなってしまいますよね。
その腐敗をストップさせ、柔らかくしなやかな革の風合いを作り出しているのが、「なめし(鞣し)」と呼ばれる工程。
「皮」を「革」にする重要な工程なのですが、この「なめし」による環境負荷が問題視されているのです。
なめし工程では大量の水が必要
Water Footprint Networkの報告によると、牛革1㎏を作るために必要な水の量は、17,000リットル(=17トン)にも及ぶそう。
牛革1キログラムって一体どれくらい?
ちょっと調べてみたところ、牛革のA4トートバッグ(裏地なし)が大体700~800g程度。
私が以前購入したことのある信頼できるブランドで例をあげると、「genten(ゲンテン)」のA4サイズトートバッグが740gでした。
端材が出ることも考えると、大き目バッグ1つに使われる革が約1㎏分だとして、それを用意するために、実は17,000リットルもの水が消費されているということなのです。
クロムなめしによる深刻な水質汚染
加えて、なめし工程で出た排水には、石炭や油脂、獣毛などが含まれるため、そのまま河川や海に流してしまうと水質汚染に繋がります。
特に、「クロムなめし」と呼ばれるなめしの方法では、大量の化学薬品を使うため、排水にも化学薬品が含まれることになります。
なめしの方法は大きく3種類。
タンニンなめし:植物性のタンニンに漬けることで皮を柔らかくする方法。天然の植物から抽出されるタンニンを使うため革に負担がかからないが、工程が長く時間がかかるのが難点。
クロムなめし:化学薬品(塩基性硫酸クロム塩など)を浸透させることで皮を柔らかくする方法。短時間で処理できるため広く採用されているが、薬品を使うため人体と環境への負荷が懸念される。
混合なめし:上記のタンニンなめしとクロムなめしの組み合わせでなめしを行う方法
このクロムなめしにより汚染された排水の処理を適切に行わず、そのまま河川に流れ出てしまった汚染水が深刻な水質被害をもたらしている地域もあるそう。
実は日本でも昔、このなめし工程で出た排水が原因の一つと思われる水質汚染に悩まされていた地域があったそう。
メーカーさんの水質浄化の取り組みでキレイな水が戻ってきているようなので、この後ご紹介しますね。
タンニンなめしのエコな革&最先端のIoT技術
皮革産業の水質汚染問題、対処法は?
革製品を作り出すにあたって水質汚染が問題視されていることがわかりましたが、いったいどのように対処したらよいのでしょうか?
「革製品を作らなければいいじゃん!」と言い切ってしまうのは簡単ですが、実は次のような方法で水質汚染問題に対応しようとしている人たちがいます。
- なめしの工程を環境に優しい方法に変える
- 消費した水のリサイクル・浄化活動
具体的にどんな人たちがどんなことを行っているのか、実例で見ていきましょう。
水質汚染の改善に取り組む革製品ブランド事例
栃木レザー
ひとつ目は昭和12年創業の皮革製造メーカー、「栃木レザー」。
栃木レザーは革製品の製造メーカーではなく、その材料となる皮革を生産する「タンナー」と呼ばれるメーカーです。
布製品でいうところの「生地屋さん」的ポジションですね!
環境にやさしい植物タンニンなめしを採用
栃木レザーでは、なめしの工程で有害な薬品類は一切使わず、ミモザの樹脂から抽出された質の高いタンニンを使用。
問題のクロムなめし(化学薬品を使ったなめし)と比べて手間暇がかかるものの、環境への配慮を優先したなめし方法を採用しています。
微生物で排水を浄化、川へ帰せる水質へ
上記のように、栃木レザーではクロムなめしを採用しないため、なめし工程で出た排水に化学薬品が含まれません。
加えて、栃木レザーでは独自の大規模な排水設備を構築し、製造工程で出た排水を処理しています。
その方法も、微生物やバクテリアなどの力を借り、段階的にろ過していくという、薬品を一切使用しない排水処理となっているそう。
そしてろ過された水の3分の1は原皮洗いにリサイクルされ、残りはなんと一級河川である「巴波川」に帰すのだそう。
川に帰せるくらいキレイな水に浄化できるなんて、すごい技術ですよね。
こうした栃木レザーの環境への取り組みに共感する企業は多く、栃木レザーの皮革は様々な革製品メーカーで採用されています。
クラウドファンディングのmakuakeで2600人以上から支援を受けて実現した機能性薄型財布にも、栃木レザーが使われていました!
上記のほかにも、「栃木レザー」で各ショップ検索すると財布やキーケースを始めたくさんの革小物が販売されていることがわかります。
やはり栃木レザーのポリシーに共感しているブランドが多いからでしょうか、全体的にシンプルで機能的なものが揃っているなと感じました。
栃木レザー取り扱い専門店
革製品の環境問題まとめ
ここまで、革製品にまつわる環境問題とその取り組みについて紹介してきました。
革製品がわたしたちの手に渡るまでには、
- 動物を育てる畜産業が排出する温室効果ガスの問題
- 皮⇒革へ加工する段階で消費する大量の水と水質汚染の問題
の大きく2つの問題がありました。
そして、水質汚染問題に取り組む企業として、「栃木レザー」の事例を紹介しました。
環境問題に真剣に取り組む企業も少しずつ増えてきていると思うので、今後も調査を続けてこちらで追記していきたいと思います!