先日、香港に一週間ほど滞在しました。
宿のある場所から中心地まで移動する道中に見た不思議な光景。
そのことが気になって調べてみたら、意外と深い話であることがわかって、香港社会のことが少しだけ理解できたような気がしたので、今日はその話を。
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車窓から見た違和感
それは日曜日のことでした。
滞在していた香港島東部からトラムに揺られてセントラル(中環)まで移動する道中、あれ?と思う光景を目にしました。
こんな感じ。
人々がビルのふもとに集まって座っているんです。
何かのイベントで並んでいるのかな?
ライブとかかな?
違ったようです。
そのビルだけでは終わらなかったのです。
セントラルに近づくにつれて、至るところでその光景が広がっているではありませんか!
人々の雰囲気的には避難所という感じでもなさそう。
日曜日だから、教会とか?
いろいろ想像しながら、トラムを降りて、セントラルから香港駅へ向かって歩いている間にも、デッキにたくさんの人たちが段ボールやレジャーシートなどを敷いて座っています。
ホームレスにしては皆さん綺麗にされているし。
そして女性ばかり。
なんとなく、フィリピンの方っぽい。
なんだろう。
デモかな?
あ、慰安婦像がある。
まさか、日本に対する抗議デモだったりしないよね。
そうだったら私が彼らを見ながらのうのうと歩いているのは非常に気まずい。
とはいえ、みんなおしゃべりしたりご飯食べたりトランプしたり刺繍に励んだり、なんだか地面が芝生だったら「ピクニック」って感じ。
そんなこんな考えながらカフェに入り、一休みしてる間にこの謎について調べてみました。
フィリピン人労働者の集いだった
調べたところ、彼らは香港で住み込みで働いているメイドさんらしい、ということがわかりました。
香港の共働き家庭では家事や育児を担ってくれる家政婦さんを雇うことが珍しくないようです。
家政婦さんはフィリピンからの出稼ぎの方が多く、他にもインドネシアから来る方もいらっしゃるようです。
そして、彼らが雇われている多くの香港人家庭では日曜日は家族で過ごすことから、メイドさんもお休みをもらえるみたいで、貴重な休日を同郷の仲間たちと過ごすために集まっている、とのことらしいです。
メイドさんの平均月収は6万円ほど。
それに対して物価は日本と変わりません。
(スタバは日本円換算するとちょっと日本より高いかな、といった印象。私が調べ物をしたチェーン系のカフェも、おそらく庶民的な価格帯とはいえ、ドリンク1杯200円くらいでした。)
住み込みで働いている彼らにとっては、「仲間の誰かの家に集まる」という選択肢もありません。
せっかくの休日に同郷の仲間たちと遊ぼうと思っても、心地よい居場所はそうそう見つからないだろうと想像できます。
そんな事情もあり、彼らは日曜が来るたびに、ビルのふもとや日よけのあるデッキなど「いつもの快適な場所」に集まって、「いつもの仲間」と大事な時間を過ごしているようなのです。
香港の大手銀行も本社ビルの一部を彼らのために開放していたりもするそう(それが銀行の好意によるものなのか黙認しているだけなのかは不明)で、メイドさんたちのことを尊重している姿がとてもすてきだなと思います。
Thank God, it’s Friday!!
そんなことを思いながらふと客席を見渡してみると、ここ(カフェ)もメイドさん軍団に占拠されているのか?と思うほど東南アジア系のお顔立ちの女性がたくさんいらっしゃいました。
みんな、楽しそうにおしゃべりしたり、誰かが故郷からまとめて買ってきてくれた化粧品などを分け合っていたり、動画を囲んで一緒に口ずさんでいたり。
外に出て、セントラルの海沿いに広がる大きな散歩道を歩いていても、人々が集っている様子を見ることができました。
お菓子を食べたり、ズンバというエクササイズをしたり、音楽に合わせて踊っていたり。
みんな思い思いの時間を過ごしています。
こちらが散歩しながらその様子を笑顔で見ていると、彼らもこちらを向いてにっこり笑ってくれました。
きっと、一週間慣れない土地で頑張って、やっと訪れた休日を仲間たちと精一杯楽しみ尽くしているんだろうな、と思うと、「楽しんでねー」と声を掛けたくなるし、企業が場所を提供したりするのもうなずけるなーと思いました。*1
以前フィリピン留学した時に、先生たちが
“TGIF !!”
と嬉しそうに言っていました。
“Thank God, it’s Friday!!”
という意味で、頭文字をとって”TGIF”と言うそうです。
(フィリピンだけでなく英語圏orキリスト教圏で共通の話かもしれません)
日本でいうと、「花金」ってやつですかね(死語かな・・・)
フィリピンでは、家族の時間をとても大切にしているようで、休日はデートや遊びなど家族以外の人と会うことももちろんありますが、家族で過ごすことや家族の行事もそれ以上に重要と思われているそうです。
それを思い出すと、家族から離れてひとり香港で頑張っている彼らにとって、休日である日曜日がいかに大事なものか、そしてその休日を家族で過ごせない同じ境遇の仲間たちと過ごす時間がいかに大事なものなのか、ひしひしと伝わってくるような気がしました。
香港に来たのに、意外なことからフィリピンに思いを馳せることになりました。
*1:シビアな想像をすると、雇い主としても休日にはメイドさんなしで水入らずで過ごしたいのかもしれないし、メイドさんにとってもお休みなのに雇い主の家にいるのも気まずいという事情があるのかもしれません。そうなると、彼らが野外の至るところでピクニック状態であることについて香港の人たちが景観として良く思っていなかったとしても、事情を考えると容認すべきだよね、という消極的な受け入れなのかもしれません。